2010年1月24日日曜日

強制採尿

 井田良・佐伯仁志・橋爪隆・安田拓人「刑法事例演習教材」(有斐閣,2009年12月)
強制採尿は,尿がいずれ体外に排出される性質のものである一方で,証拠収集の要請は非常に強いことから,許容される。必要な令状の種類は,捜索差押令状である[S551023百31] 。被処分者の意思を制圧して身体に制約を加え強制的に捜査目的を実現するものだから,強制処分である。そして,体内に存在する尿を採取するという性質上,捜索・差押えの性質を有する。そこで,捜索差押令状を要する。また,「必要」(218Ⅰ前段)がある場合とは,人格権という重大な利益を侵害するおそれがあることから,捜査上真にやむを得ない場合に限られる。具体的には,任意提出せず,被疑事実が重大で,嫌疑があり,証拠の重要性・必要性が存在し,代替手段がない場合である。そして,身体の安全確保の要請と人権侵害のおそれがあり,身体検査と共通の性質を有することから,医師をして医学的に相当な方法による旨の条件記載を要する(218Ⅴ)。
そこで,医師が治療の目的で救急患者の尿を採取して薬物検査をしたところ,覚せい剤反応があったためその旨警察官に通報し,これを受けて警察官が上記尿を押収した場合,当該入手した過程は許容されうる[H170719重判17-1] 。医療行為として違法とはいえないし,また,通報も正当行為として許容されうるからである。
適法に発付された強制採尿令状により,令状自体の効力として,採尿に適する最寄の場所まで被疑者を連行することができ,その場合において,必要最小限の有形力を行使することができる[H060916百32] 。そのように解しないと,強制採尿令状の目的を達成できないし,また,令状を発付する裁判官は,このような連行の当否を含めて審査したとみることができるからである。

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